彼等は幸いにして今日まで太陽系という原子から、地球という電子を叩き出すことに成功はしておりません、しかし一点(ほんの一点)先きに、僕はこのサイクロトロンの中の実験材料から電子を叩き出すことに成功しております、僕の爆撃によって叩き出された電子の上にあったであろうあらゆる生命、思想、文明は、粉砕し去られたはずです、この成功は、間もなく超大巨人の実験室に於いても成功するでしょう、そして原子爆撃、僕たちにとっては宇宙爆撃が工業的にまで行われるようになるかも知れません。――しかもこの恐るべき宇宙爆撃は絶対に阻止するすべ[#「すべ」に傍点]が無いのです、それは、現在この僕の実験室にある実験材料の物質の、その中の原子の中の電子というものから、いかに阻止の歎願が叫ばれたとしても、それを知り得るすべ[#「すべ」に傍点]がないからと同じです。地球人は、この刻々に迫っている宇宙爆撃の破滅も知らずに、笑い、怒り、歌っているのです、僕は、何か総毛立つような恐怖を感ぜずにはいられません。
しかし超大巨人の宇宙爆撃によって、この地球がむざむざと宇宙の外に叩き出され、むなしく崩壊することは、とても坐視するに忍び難い思いです、地球文明が飛散する前に、なんとかして超大巨人に、彼等にとってはただの電子でしかない地球の上に、このような科学文化があったことを知らしめたいのです、それには、唯一つの方法しかありません。つまり地球人自ら地球を爆砕するのです、八個の電子を持った原子が、そのうちの一個の自己爆砕によって七個の電子を持つ原子と変り、ここに元素の自然変換が行われる筈です、超大巨人の実験室のテーブルに置かれたベリリウムは、忽然としてヘリウムに変換するでしょう、この奇蹟に超大巨人が興味を持ったならば、やがて電子一個の自爆による減少に気づき、そしてその自爆の原因を追求していったならば、やっと自爆した地球と名づけられた電子の上の科学文化に気づくかも知れません――これ以外に、超大巨人に僕等の存在を知らせる方法がないのです。僕はこの宇宙爆撃に先行する地球自爆の方法を考えて見ます、おそらく原子破壊のエネルギーによって不可能ではないと信じます。七月二十六日附――。
八
しばらく音信が絶えていたところに突然やって来たこの村尾健治の長い手紙は、その内容でひどく木曾を愕かせた。あまり夢中になって原子爆
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