うか。勿論時勢が時勢だから放任して可いと云ふのではない。一方に於て犠牲奉公の精神の我々の国家的生活の発展に欠くべからざる所以を力説すると共に、他方時代の変に応ずる独特の施設を講ずるの必要があらう。之れ西洋の先進国に社会政策的施設の最も盛んなる所以である。而して我国の先輩は或は国家的設備の形式的整頓完成に誇るものはあらう。然しながら社会政策的施設によつて国民の生活を幸福にならしめた点に誇り得るものは果して幾人あるか。滔々たる政治家皆之れ便所を造らずして西洋の真似をして放尿すべからずと云ふ衛生警察の規則を拵へたもの許りではないか。さればと言つて予輩は憂国の先輩が、今日の青年の志気の頽廃を慨嘆するのを不快に思ふといふのではない。只今日の青年は之れでは動かない。中には或点まで事実の真相を徹底的に見て居る者もあるから、もつと立入つた説明でなければ満足しないものもある。故に従来の先輩の慷慨論は同じ時代の教育を受けた老人達や、又は新らしい教育の風に触るゝことの少き地方農家の若い衆には、多少の同感を得るかも知れないけれども、国家の最も有力なる多少の見識を有する青年には何等の反応を見ないのである。地方の
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