忍耐力がない、我々の若い時は三日も四日も小便を堪へたやうな事を云ふ。彼等の青年時代には路傍の放尿は法の禁ずる所ではなかつた。今日衛生上の考から之を以て法禁とする以上、彼等先輩は先づ沢山の辻便所を作る事に骨を折らねばならない。時代の変遷に応ずる各般の施設を怠つて昔通りの激励鞭撻を加ふるのみでは、更に最新の教育によつて自我の意識の段々に発達して居る今日の青年は承知しない。先輩諸君の常に敬服して居る独逸などでは二三丁置きに、中で弁当を開いて喰べてもよい程の立派の辻便所を拵《こしら》へ、而かも尚特に夜間に限り、車道に向つて放尿するものは之を大目に見るといふ習慣がある。之れ丈けの念の入つた手続を尽した上で、初めて放尿の禁を説くべきである。斯くても其禁を犯すものあれば、其自制力の乏しきを罵るべきである。我国に果して之れ丈けの設備があるか。設備なくして法の励行の苛察に亘るの甚だしきは、夜場末の暗がりで止むを得ず放尿しても厳しく法に問はるゝもの少からざるを見ても分る。
遠大の志望を抱けとか、国家的奉公の念を熾《さか》んにせよとかいふ議論の一面は、兎も角も国民に向つて多大の犠牲を要求するの声である。今
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