誰か世に生き残るべき墳墓《おくつき》の古きを見れば涙ながるる
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明治二十九年九月二日、妻初枝の身まかりければ。
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おくれじと思ひもあへぬ妻わかれ我を残していづち行きけん
明日しらぬ老が行方を歎くかなあはれ今年は妻なしにして
えにしありておなじ宿守るきりぎりす影だに見えず声も聞えず
今朝《けさ》は家に見えねばさびし子の為にその垂乳根《たらちね》の母の面影《おもかげ》
いささめの雲隠れとは思へども見えねばさびし秋のかりがね
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その喪に籠りけるほど。
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秋の日もうらさび暮し夜《よる》は唯いきつぎ明す身にこそありけれ
臥しかねて秋の夜寒にくるしむは壁なる虫と床《とこ》の上《うへ》のわれ
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その忌の終る日。
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身まかりて四十日《よそか》九日《ここのつか》わが妻の潔斎《いもゐ》もあはれ今日かぎりかな
世にあれば怨言《かごと》も言へど亡き後の妻屋を
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