か》り雨夜《あまよ》の月にむささびの啼く
春雨に花のとぼその霧曇り都のかたも見えぬ窓かな
こころよき春のうたたね降る雨を夢とうつつの中空に聴く
春日かげ長閑に霞む山寺に苔路きよめて花を見るかな
老の身は後たのまれず花のみは春は往ぬともとはに咲かぬか
花の枝の下《した》なる窓を朝目よく開くれば月に鶯の啼く
うち見れば世を終るまで惜まれつ花はわがため絆《ほだし》とぞ思ふ
七十ぢにあまる春までながめても花は老せず若やかに咲く
霞みつつ日は落ちにけり山かげの花のみ白き春の夕ぐれ
年を経て世にすてられし身の幸は人なき山の花を見るかな
ものいはぬ仏と住めばものいはぬ花もたふとし歌の中山
身につもる思を何になぐさめん常磐ににほふ花も咲けかし
うつせみの世に捨てられて山に入れば我より前《さき》に花ぞかをれる
花の色よ老だに隠せ若《わか》からば陰には千世の春も経ぬべし
そよ吹けば香こそはまされあだながら花にも待ちぬ松の下風
かなしくも濡れつつ散りぬさくら花この春雨に濡れつつ散りぬ
山風のはらへば積り積りして簀子《すのこ》に花の絶えぬ庵かな
風ならで訪ふ人もなき山の戸は掃
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