《ひぐらし》の啼くこゑ聞けば秋ちかづきぬ
蝉の音に夏こそ残れ山窓はにほひすずしき葛《くず》の初花
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播津国住の江の遠里小野にまかりし時。
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露おけば白く涼しな住の江の遠里《とほざと》小野《をの》の草な刈りそね
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妙心寺中の蟠桃院なる稻葉宙方の身まかりけるに。
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六十路《むそぢ》あまり共に浮世を夢と見き君こそ先づは覚めて往にけれ
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山城国愛宕郡高野村の猪口徳右衛門は、若き頃より禅を修しけるが、身まかりければ、手向けつ。
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なきがらを世に打捨てて一つだに物見ぬ本《もと》つ身に帰りけん
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明治二十四年一月九日、西賀茂神光院なる覺樹老比丘の入寂したまへるに。
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かりそめの影なりながら法《のり》の月雲がくれこそ悲しかりけれ
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薩摩国より帰れる時。
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繁糸《しげいと》のいとも苦しや世の中は長しみじかし心みだれて
人わざのしげきを捨てて身を安く世を過《すぐ》さんと求めぬはなし
身のあらんかぎり思はず仮初《かりそめ》の世にいつまでのうかれ心ぞ
たまたまに浮世の夢は見しかども心とむべき里だにもなし
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人に示す。
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何事もみな我からぞいささめに人を悪しとは言ひなくたしそ
人とわれ隔てごころの起る時おのれに告げよ道に惑ふと
天地の人も一つを隔てしてわれはごころに身をぞ過まる
わが物と何を定めん難波潟蘆のひと節《よ》のかりそめの世に
家あれば家をうれたみ田のあれば有るが歎きの種とこそなれ
田も家も無さを悲むうらうへに有れば歎きぬわが妻子《つまこ》まで
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相国寺荻野獨園老師の七十の賀に。
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老の陰《かげ》かくさで照せ法《のり》の月めぐみを有漏《うろ》の露にやどして
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倉田保之の七十の
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