かりける路にて。
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伊賀大和ふき来る春の山風に梅が香しみて霞む空かな

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おなじ時、笠置山をよぎりて。
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拝《をろが》めばたふとかりけり笠置山くすしき巌はみな仏《ほとけ》にて

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明治二十六年きさらぎの初、雪ふりける日、人人と修学院村道入精舎に遊びて、百首歌しける折。
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竹の雪たわわに積る葉末より落つるしづくは降るにまされり

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一乗寺の里に住みける頃。
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比叡の山霞のおくに声はあれど花をはなれぬ谷の鶯

萱《かや》むしろ芝生に敷きて花見つつ歌ひたのしむ身こそ安けれ

桜狩り山にうかると見し夢のさむるもおなじ花の木《こ》のもと

おぼろ夜の月には水も霞むらん蛙《かはづ》なくなり前の山の井

わが山の霞のおくに分け入ればあさる雉《きぎす》も山鳥も鳴く

山を近みをりをり雉《きぎす》山鳥の羽音のどけき老が庵かな

菜の花に蝶のむつるる現《うつつ》さへ夢に見らるる老が庵かな

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妻初枝と、吉野、高野などをめぐりて。
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あくがれて花に幾夜の旅寝すと知らで家には我を待つらん

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夕立五首。
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はたた神ゆふだつ沖の汐ざゐに鯨うち上げて荒浪さわぐ

大島や麓ゆふだつにはか雨めぐりの磯は汐の濁れる

荒磯の浪に馴れたる離れ鵜も風ながれするゆふだちの雨

うつくしき砂をたたきて打けぶりむら雨すぐる浜の松原

風早《かぜはや》の浦のゆふだち足早み釣舟さわぐ浪立つらしも

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夏の歌の中に。
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杉むらにかがなく鷲の巣に隣る庵こそ夏は涼しかりけれ

江口《えぐち》びと簗《やな》うちわたせその簗に鮎のかからば膾《なます》つくらな

沢の辺に咲く花がつみかつ散ればやがて咲き次ぐ撫子の花

川岸の根白《ねじろ》高萱《たかがや》かげもよし釣しがてらやここに涼まん

堀江川入江の蓮は五月雨に花もよひして茎
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