たら何もかも一切ぶちまけてしまふことだ。
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 おれはこんなことを思つたが、また
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――体この女は何んだ。PASSY に住んで居ると云ふだけで、くはしいことは自分から話すまで問はないで居て下さいと云つた。もう巴里に一年近く居るおれは大抵人間の階級の見当が附き相だ。けれどこの女の身の上は解りかねる。若しやと想ふこともあるが、それでは事実が余りに ROMANESQUE だ。おれと仏蘭西の NOBLESSE、そんな夢幻劇が型のやうに仕組まれやうとは考へられない。まあ暫く夢遊病者《ノクタンビユウル》になつて夢に引きずられて居やう。そのうちに女の正体が解つて来るだらう。けれど矢張気に掛けずには居られない。女はおれを何と想つてるのかしら。女はダンヌンチヨが黒奴や其他の野蛮人を下部《ギヤルソン》に使つて得意になつて居ると云ふことを話した。女はおれを黒奴の下部《ギヤルソン》あつかひにして居るのかも知れない。おれがあの女の後ろからこの荷物《パツケ》を持つて供して居るのは黒奴でなくて何んだ。
おれはこんなことを考へて気を引き立てたり滅入らせたりして居た。それから
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