む期《ご》しるものゆゑ

ふりそでの雪輪《ゆきわ》に雪のけはひすや橋のかなたにかへりみぬ人

かけものゝ牛の子かちし競馬《けいば》のり梅にいこふをよしと思ひぬ

酒つくる神と注《ちう》ある三尺の鳥居のうへの紅梅の花

われにまさる熱えて病むと云ひたまへあらずとならば君にたがはむ

菜の花のうへに二階の障子《さうじ》見え戸見え伯母見えぬるき水ふむ

あやまちて小櫛《をぐし》ながしゝ水なればくぐるは君が花垣なれば

河こえて皷《つゞみ》凍らぬ夜をほめぬ千鳥なく夜の加茂の里びと

鹿《しゝ》が谷尼は磬うつ椿ちるうぐひす啼きて春の日くれぬ

くれなゐの蒲団かさねし山駕籠に母と相乗る朝ざくら路

あゝ胸は君にどよみぬ紀の海を淡路のかたへ潮わしる時

まる山のをとめも比叡の大徳《だいとこ》も柳のいろにあさみどりして

法華経の朝座《あさゞ》の講師《かうし》きんらんの御袈裟《みけさ》かをりぬ梅さとちりぬ

いでまして夕むかへむ御轍《みわだち》にさざん花《くわ》ちりぬ里あたたかき

歌よまでうたたねしたる犯人《ぼんにん》は花に立たせて見るべかりけり

うれひのみ笑みはをしへぬ遠《とほ》びとよ死ねやと思
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