声に心こほりぬ

みなさけかねたみか仇かあざけりかほほゑみあまた我をめぐれる

歌はみな天《あめ》のひかりにあこがれぬ母なき国に栖みわびぬれば

わが歌は鴿《はと》にやや似るつばさなり母ある空へ羽搏《はう》ち帰れと

大神のみまへめぐりて立たむときかしこき人ら今日を忘るな

わきて身にしむやこの秋もみぢ葉のこきひと葉すら咀はれの色

[#改丁]
曙染

[#地から1字上げ]與謝野晶子

春曙抄《しゆんじよせう》に伊勢をかさねてかさ足らぬ枕はやがてくづれけるかな

あゝ野の路《みち》君とわかれて三十|歩《ぽ》また見ぬ顔に似る秋の花

ほととぎす聴きたまひしか聴かざりき水のおとするよき寝覚《ねざめ》かな

海恋し潮《しほ》の遠鳴りかぞへては少女となりし父《ちゝ》母《はゝ》の家

加茂川に小舟《をぶね》もちゐる五月雨《さつきあめ》われと皷《つゞみ》をあやぶみましぬ

鎌倉や御仏《みほとけ》なれど釈迦牟尼は美男《びなん》におはす夏木立かな

おもはれて今年《ことし》えうなき舞ごろも篋《はこ》に黄金《こがね》の釘《くぎ》うたせけり

養はるる寺の庫裏《くり》なる雁来紅《がんらいこう》輪袈裟《わげ
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