ふと倚るに見たるは清き高きまどひその昨日《きのふ》もつしら梅の花

拍つ手ここに御池《みいけ》の緋鯉なれつるよ一人《ひとり》を京の春の子老いな

まぼろしに得たるみすがたたどる眼にいつしか霧の枯野を得たり

わが魂を武蔵やいづこ水よ引け夜《よる》の二百里花ふらしめよ

御手《みて》もろともそよ片山のこがらしにまぎれ消ぬべき我ならばとも

おんすくせわかき御尼《みあま》に泣かれけり堂の夕寒《ゆふさむ》わが袖まゐる

寒菊に涙さびしき夕別れせつなき別れ西の京にして

わがなれぬ寒さの袖にまたも雪風は愛宕の北のおろしよ

そのおもざし姉に似たるにまた泣きぬ雨のまくらをふた夜の人や (弟と京にてよめる)

知らざりしほころべば[#「ほころべば」は底本では「ほころべは」]黄に紫にきのふ垣根に名なかりし草

舟にして蓮きる御手の朝うつくし十九を滋賀の水によき君 (友に)

なぐさめむ人なき寮の夜のさくらおなじ愁の君にちるべき

夜の柳ひくき浪華の水なりき歌うて過ぐる君とのみ見し

笛を追ひてゆふべ船やる水一里|蓮《はす》の香のせて櫓にやはらかき

なぐさみぬ都の旅の秋の身も歌に笑む夜は足る人
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