いた。早いひと!」
「予感がしてたのね。一週間ばかり前から。知ってるでしょう、あの有名なボロ保険のHよ。三十七円くれるって。」
「あんたの根は其処で延びるわけね。波間の海草みたいに、始終動揺してるこの事務員階級をまとめていくって、わりと骨仕事ね、だけど、此処で三十人近く集めたのは大きい事だわ。」
「己惚《うぬぼれ》ちゃ駄目よ。私達に残された仕事は、まだまだうんとあるんだから……これがほんの序の口よ。……じゃ、私、これから行って京橋きめてくるわ。」
 祥子の額にたれかかったおくれ毛を耳へ挟んでやってから、槇子は、両腕を高く振りあげて大きな背のびを始めた。



底本:「日本プロレタリア文学集・23 婦人作家集(三)」新日本出版社
   1987(昭和62)年11月30日初版
   1989(平成元)年5月15日第3刷
底本の親本:「文学時代」
   1930(昭和5)年12月号
入力:林 幸雄
校正:染川隆俊
2001年6月28日公開
2006年5月18日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作
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