とのびのびになり加様に御無沙汰いたせし次第何卒々々おゆるし下され度、ねがいあげ候。
鶴江の育つをみるにつけ、菊ちゃんもさぞ大きくなられたであろうと存じますが、おかわりもありませんか。またあなた様のことは時折り夢にさえみ、あの黒髪のゆたかさなど懐しくしのんで居ります。岡村へはあのままたよりもいたしませず、余りの御無沙汰に、今日はこのあとに一本書いて出すつもりで居りますが、あね様からもおついでの時くれぐれも宜しく、伊助の写真でもありますならどんなに小さいのでもよろしいから一枚送って下さるよう、おねがい申して下さいませ。また、あれの書きました習字でもありますなら(どんな書きくずしでもよろしく)これも一枚おねがいいたします。
いつもいつも嬉しいたよりはきこえあげず、さぞかしおうるさい事でありましょうが、父からはかえりみられず、岡村のあに様や戸部の伯父とてあの様なもの堅さではとりつく島もなく、ただただ頼りになるのはあね様のみ、嬉しいにつけ悲しいにつけ、つい、お耳にいれておすがり申したきこの心情、何卒御推察下さいますよう。
つきましては、加様に不甲斐なきわたくしの躯故、またもまたもと良人に薬買う金もせがまれず、さりとて、このままにては何時果てるやもしれず、あね様ひとりを頼りと思い、たってのねがいおきき届け下さいますよう、金十円程を御融通下さる訳にはまいりませんでしょうか。出来なければ九円でも八円でもよろしく、これはひと興行終りますれば良人の手にも幾ばくかの金が入ります故、是非にでもおかえし申しますれば、御安気下され度。この久留米にはあと半月も居りましょうから、まだまだおたよりはさしあげますなれど、お躯くれぐれもお大切にあそばすよう、伏してねがいあげます。
[#地から2字上げ]かよ
底本:「神楽坂・茶粥の記 矢田津世子作品集」講談社文芸文庫、講談社
2002(平成14)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「矢田津世子全集」小沢書店
1989(平成元)年5月
初出:「文学界」
1934(昭和9)年8月号
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2008年8月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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