ものを口にすると、きっと、あとで腹痛をうったえた。あんなにお粥を喜んでいた良人であった。
先きに宿へ帰っていた姑は、掃除のすんだ部屋の炉端で茶を喫んでいた。
裏の藪から鶯の声が聞えてきた。
「おかあさん、鶯よ」
きこえないらしい。
「おかあさん、鶯が啼いていますよ」
姑は茶碗を口にあてたなり振り向いて、
「ほんとに、いい按配のお茶ッコだしてえ」
と、うなずいてみせた。
清子はそれなり、鶯のことにはふれなかった。
底本:「神楽坂・茶粥の記 矢田津世子作品集」講談社文芸文庫、講談社
2002(平成14)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「矢田津世子全集」小沢書店
1989(平成元)年5月
初出:「改造」
1941(昭和16)年2月号
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2008年8月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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