でもするようなうろたえようである。そうした姑が清子には何か悲しかった。常は口の重い姑だけに、良人が亡くなってからこの方の軽口は悲しかった。それは清子に取り縋る感じで、まつわるように話しかける。
亡夫の初七日のとき郷里から出てきていた親戚の者の口から、ふと清子の再婚の話が出ると、姑もその場では同意したけれど、それからの落ちつきを失くした姿、おろおろした姿は清子の胸に沁みた。良人に逝かれてからというもの清子と姑の気持は一そう寄り添いあって、いわば二人はお互の突っかい棒になっていた。年老いているだけに姑はよけいこの支えなしでは居られない。買い物で清子が少し手間どると、姑は露路口まで出て待っている。清子が外出の仕度をしだすと、うろうろと世話を焼きながら、ふと頼りない眼いろで見戌る。そうした姿に堰きとめられて清子は出難くなる。或夜のこと、厠へ立とうとした清子を突然姑が呼びとめて、
「何処さも行かないでけれせえ」
と声をしぼって取りすがった。悪い夢におびやかされたと後で分ったけれど、このことがあってから清子は尚のこと姑の側を離れないようにした。
子に恵まれなかった清子夫婦にとって、姑ばかりがその愛情の対象だった。よく良人のことを養子か入婿かと尋ねられたものだったけれど、人の眼にも姑と清子の仲はそれほどまでに映るらしかった。よく良人が冗談に、
「俺をそんなに放ったらかしにするなら、何処かへ行ってやるぞ」
と嚇かしたものだった。
それほどの姑を初めの頃は清子も少し恨んだことがある。良人が清子を妻にと望んだとき、シャゴマ[#「シャゴマ」に傍点]だからとけち[#「けち」に傍点]をつけたのは他ならぬこの姑だったのである。シャグマの清子は後でそのことを良人から聞いて、とても口惜しい思いをした。お釈迦さんでもやっぱり縮れているじゃないか、と良人に笑われて姑は納得したものの、今度は良人のほうが後あとまでも清子へ恩をきせる始末に、有難迷惑なようでもあった。
仲人の助役の家で初めて清子を見かけたときの姑はニコニコした顔で、
「シャゴマ[#「シャゴマ」に傍点]はシャゴマ[#「シャゴマ」に傍点]だどもなし、あの嫁コ福耳だから家さうん[#「うん」に傍点]と福はこんで来るべ」
と至極の上機嫌だったという。
この耳は清子も持物の中で一等自慢にしているもので、肉の厚いぽってりとした耳たぼがとて
前へ
次へ
全16ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング