らというもの急に馬淵の家では目立ってきた。客の応対から賄の世話、時には爺さんの算盤の手伝いまでするという風である。内儀さんからみっちりお針を仕こまれているので今では一人前の仕事が出来る。裏の後家さんから内儀さん同様賃仕事を分けてもらっては暇ある毎に精を出している。糸屑一本無駄にはせぬその仕末ぶりが大そう爺さんの気にいっている。内儀さんが生前目をかけていたのも尤もなことだと思う。爺さんには種がだんだん意に叶ってくる。
 四十九日があけると爺さんは袋町へ行った。二、三日遠のいていると、もう魚辰の若いもん[#「もん」に傍点]が言伝てを頼まれてくる。そのうちおっ母さんが何やかやと用事にかこつけては馬淵の家を訪ねてくる。爺さんは内々これを快としていない。どうもおっ母さんのやってくるのは魂胆があってのことで、それがこんどは見えすいているようである。爺さんがひと晩泊りの出張で留守をしている時など、主人顔で上りこんで、金庫をいじくったり、箪笥の中をのぞきこんだりして、「へえ、お形見がこないと思ったら空っぽなんだものねえ」と下唇を突き出して厭味な笑いようをしたという。爺さんは種からそれを聞いて肚を立てた
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