内儀さんは種に髪を梳してもらいながら「ああ、わたしにもこんな女の子があったらなあ」と思うことがよくある。それがつい溜息になって出ると内儀さんはてれかくしのつもりか「種が優しくしてくれるので、わたしは全で自分の娘のような気がするよ」
などと云うたりする。櫛を持った種はそれを聞きながら何やらぞくっとする程嬉しくて、一そう努めようとする気もちから内儀さんの髪がひっぱられて釣り目になるのもかまわず脚をふんばってはせっせと梳してやるのだった。
母を知らぬ種が内儀さんを慕い、内儀さんが種を頼りにする気もちが次第に結ばれていって、いつとはなしにそれが母娘のような間柄になっている。爺さんに隠れて甘《うま》いものを食べることもある。家計を少しばかりごまかして内儀さんが種へ染絣を買うてやることもある。種が内職の稼ぎ高のいくらかを別にしておいて、それでこっそり内儀さんの好きな豆餅を奢ることもある。こんな隠し事が度重なるにつれて内儀さんと種の仲は一そう親密に結ばれていく。
夜分は爺さんが留守がちなので内儀さんも種も賃仕事の針を動かしていることが多い。
内儀さんがこんな風に話し出す。
「どうもねえ、山吹
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