と廊下を指さしてみせる。
おしもは畏まって、丸々と肥えた膝頭をついて、大きな乳房をゆさぶりながら熱中して拭きにかかる。そんな動作をくりかえさせながら、夫人の眼ざしは執拗におしもの体を離れない。どこまで、この妬心に耐え得られるかと、まるで、自分を試しているようである。
おしもは多分に神経の間のびた呆んやり者で、ただ、主人大事に豆々しく働いているのが取り得の女であった。一昨年世話する人があって福島在から奉公に上ったのだが、土臭い山だしの小娘も、今では、どうやら作法というようなことを一通り身につけて、客の前へ出されても恥をかかないまでになった。始終ニコニコと笑っているのが癖で、どんなに忙しく動きまわっている時でも、また、何かの粗相で叱られている時でも、このニコニコ顔をはなしたことがない。
「おしもの顔は年中お祭を見ているようだね」
よく、こう云うて夫人は揶揄《からか》うのだった。切角、茶の間へ呼びつけて意見をしている時でも、このニコニコ顔を見ていると、ものを云う張り合いを失くしてしまう。まるで、三ツ児を相手にしているようだ、と夫人もつられて笑ってしまうのだった。
「おしもは呆んやり
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