が骨董漁りに出かけたあとで、慶太郎がにやにや笑いながら茶の間へ入ってきた。母に寄り添うて炬燵へ足をいれながら、
「お母さん、おもしろいもの見せてあげましょうか」
云いながら、懐から一通の封書をとり出した。
「今朝、出がけに郵便受けをのぞいてみたら、これが残ってたんですよ。いいですか、僕、読みますよ」
慶太郎は、花模様の便箋を開いて、生真面目な表情をつくって読み初めた。
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「おなつかしき旦那さま
その後お変りもいらっしゃいませんでしょうか? あけくれ、旦那さまのお身の上を思っては涙を流して居ります。あんなにおやさしく御親切にして頂きましたことは、死んでも忘れられません。思い出しますたびに胸がチクチク痛みます。いつぞや、買って頂きましたルビーのゆびわもはだ身から離しません。旦那さまとは、もう、たびたびお目にかかれませんから、このゆびわを旦那さまだと思って眺めています。この切なさ、どうかお察し下さいませ。
主人は大変に私を可愛がって下さいますが、何んだかもの足らなくてなりません。ああ! 旦那さまのお傍にいたらどんなに仕合せかしら、とただただそればかり思われます。
そ
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