ようなところがある。
「俺のあそびは仕事のひとつだ」
始終これを聞かされている夫人にとっては、このあそびの相手へ妬情を抱くということは、いわば、良人の仕事へ妬情を抱くと同じようなものである。そして、この良人の「仕事」が妻のあらゆる干渉を食い止める。けれど、一方仕事の圏内では天下御免の良人が誰にも憚からずのうのうとあそんでいられる。ただ、夫人への義理めいた心から、唐沢氏は息子を夫人へあてがっておく。若い頃からリュウマチに苦んでいる夫人を見慣れているので口癖のように、
「お前は病弱だからなあ」
という。それを耳にするたびに夫人は引け目な思いをする。自分は病弱なのだから良人に外であそばれてもしようがない、と諦める。
「慶太郎をばひとつ医者に仕立てて、お前を看取らせることにしよう」
もの優しく、こうも云うてくれる。その劬りが夫人にはこの上なく嬉しいのだ。そして、その劬りにほだされた夫人の心は、いつか、良人の放蕩を大目に見るように馴らされてくる。やがて、その劬りで放蕩が棒引きされ、優しい言葉を聞かされるたびに、すべてを忘れて感謝の念に浸るのだった。
もともと製鋼所をひきつがせたい嗣子の慶
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