のうち、きっと、お目にかかりに伺います。もし、主人が一しょの時は、どうか、私の方ばかりをごらんになりませんように、たのみます。主人は、やきもちやきだと隣りのおかみさんが教しえて下さいました。おついでの時に、奥さまへもよろしくおっしゃって下さいませ。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から3字上げ]旦那さまの
[#地から2字上げ]おしも
[#地付き]より」
読み終って慶太郎は、どたんと仰向けに寝転がって、はっはっ、と声をたてて笑った。つられて、老夫人も笑いかけたが、その顔は笑いにならず、哀しげに眼を伏せるのである。
「お風呂のお仕度が出来ました」
障子の外からお梅が声をかけたので、慶太郎は「よいしょっ」と起きなおって部屋を出て行った。
やがて、投り出されたままの便箋を手に取ろうとした老夫人の耳へ、湯殿の方からきゃっきゃっと笑いこけるお梅の声がきこえてきた。慶太郎に構われているらしい。思わず、老夫人は腰を浮かした。
底本:「神楽坂・茶粥の記 矢田津世子作品集」講談社文芸文庫、講談社
2002(平成14)年4月10日第1刷発行
底本の親本:「矢田津世子全集」小沢書店
1989(平成元)年5月
初出:「文学界」
1936(昭和11)年12月号
入力:門田裕志
校正:高柳典子
2008年8月16日作成
青空文庫作成ファイル:
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