の響きや人声やミシンの騒音の中に、その真っ白いカーテンだけがふんわりと音もなく揺れるのだった。
蚊帳も団扇もしまいこんで雨戸を閉め切る時節となった或る夜、ぎんは寝床の中で俊雄の手紙を読み返していた。難かしい字が多くなって、このごろは判じよむのに骨が折れた。「伯母上様」と書き出しから、もう漢字であった。中学に上るとえらくなるものだと、ぎんは感心した。友だちはみんな万年筆を持っているのに、僕だけ買ってもらえないと愬えてあった。お父さんが今病気でお医者にかかっていると知らせてあった。僕は赤ん坊のお守りをしたり勉強したりで、とても忙しいと附け加えてあった。
ぎんは、あした早速万年筆を買って送り出そうと思った。俊雄の喜ぶ顔を想像した。しかし、浮んでくるのは、涎れあぶくを吹いているよちよち歩きの男の子である。すると、まわらぬ口で「母チャン」と呼ぶ可愛い声がきこえてくるのだった。
この春生まれたという赤ん坊へも何か玩具を送ろう。それから子供の父親へも見舞いの金を送ろう。貧乏して、どんなに困っているだろうと、ぎんは眼をうるませた。
そして、カキカキした大きな字の手紙を頬に敷いたまま、いつのまに
前へ
次へ
全25ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
矢田 津世子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング