ン内職にかかりつめるようになった。通いの娘たちは親しんで、よく働いた。仕事がだんだん立てこんで、ぎんはミシンにかかったなり応待したり製品の受け渡しを指図したりした。ニコニコ顔が利いて、取引先きの受けもよく、愛嬌者だと評判もよかった。
 ミシンの手を動かしている最中、ふと、眼前に広い立派な西洋間がひらける。大きな額や綺麗な飾り椅子がある。高い窓がいくつもいくつもあって、それにはみんな真っ白いレースのカーテンがかかっている。小模様の織目の細かい上等品である。ふんわりと揺れはためく裳裾の房がパタパタと鳴る。揺れるカーテンにコスモスの花が咲いている。淡紅い今にも消えそうな花が、白い花むらの中にぽつぽつと咲いている。花の波がゆさゆさと揺れる。裳裾の房がパタパタと鳴る。すると、カーテンがふんわりと揺れはためく。
 ぎんには、そのレースが織目の細かい上等品だということも、小模様が一つ一つコスモスの花だということも、たくさんの襞がふんわりと揺れうごくさまも、ありありと見えるのである。裳裾の房が耳の中でパタパタと鳴り、手を伸ばすと揺れはためくカーテンのやわらかな感触が伝わってくるのである。通りを走る電車
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