邇コ内へ飛び込むことが出来るのだ。」
「そこで君に注意して貰ひたいのは、そんな冒険な事を旨く為遂《しと》げるには、そいつが非常な軽捷な奴でなくてはならぬと云ふ点だ。僕の説明するのはさう云ふ軽業が不可能でないと云ふのが一つで、それからこれを為遂げるのは、非常に軽捷な奴でなくてはならぬと云ふのが二つだ。かう二段に分けて僕の説明を聞き取つて貰はなくてはならないのだね。」
「この説明を聞いたところで、君には多分不得心な廉《かど》があるだらう。それは窓から這入つて行く奴が非常に軽捷でなくてはならぬと云ふ半面には、そんな軽捷な働を要求する為事を為遂るのは困難だらうと疑はなくてはならぬと云ふことがあるからだ。刑事の役人共も大抵さう云ふ考方をするが、それは理性の歩んで行くべき正当な道筋でないのだ。僕なんぞは只真理を目掛けて、一直線に進んで行く。この場合に僕が君に対してしてゐる説明は、その非常な軽捷な体と、例の不思議な、鋭い、又は叫ぶやうな声とを連係させて考へて貰はうとするにあるのだ。あの証人共が区々《まち/\》な聞き取りやうをした、詞に組み立てられてゐなかつた声と連係させるのだね。」
これまで聞いた
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