謔閧ゥ寧ろ山の頂に求めた方が好いのだ。この関係は天体を観察する方法を見ても分かる。人がどんな間違をするか、その間違が何から起るかと云ふことが、天体の例で説明すると分かるのだ。星なんぞを見るのに、それを注視しないで、ざつと横目で見るのが好い。さうすると星が目の網膜の外囲部に映る。そこは中心部よりも微弱な光線を知覚するに適してゐる。そこで星の形もその光も一番はつきり分かる。それを注視すれば注視するほど星の光は濁つて来る。無論注視した時の方が、目に受ける光線は量は多いが、それを感ずることが鈍いから無駄になる。それに反して横目でちよいと見ると、少い量の光線に対する感受性が鋭敏なので却て好く見える。それと同じ道理で深くえぐつた捜索法は人の思量を鈍らせて混雑させる。金星位な星だつてぢかにぢつと見詰めてゐると、とう/\天の何処にもゐなくなつてしまふよ。そこであの殺人事件だがね。あれに就いて考案を立てるには、まづ我々ばかりの手で特別な捜索をしなくてはならないね。そいつが随分面白からうと思ふよ。」
 ドユパンがかう云つた時、あのいまはしい犯罪の形跡を尋ねるのが面白からうと云ふのを、己は随分異様に感じた。
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