《か》む癖がある。
バルヂピエロはまだ杖に縋つて歩くやうな体では無い。綺麗に剃つた頬に刈株のやうな白い髯の尖が出掛かつてはゐるが、体は丈夫でしつかりしてゐる。己達は緑の木立に囲まれた立像の前に足を駐めた。主人はその裸体を褒めたが、其|詞《ことば》は此人が形の美を解してゐると云ふことを証する詞であつた。その外主人は杖の握りに附いてゐる森のニンフをも褒めたが、その褒めかたに己は殊に感服した。そのニンフの彫物《ほりもの》は、主人の太い、荒々しい手で握つてゐる杖の頭《かしら》に附いてゐて、指の間からはそれを鋳た黄金《わうごん》がきら附いてゐるのである。
そのうち食事の時刻になつた。奢《おごり》を極めた食事で、随分時間が長く掛かつた。己達の食卓に就いたのは、周囲の壁に鏡を為込《しこ》んだ円形の大広間であつた。給仕は黒ん坊で、黙つて音もさせずに出たり這入つたりする。その影が鏡にうつつて、不思議に大勢に見えるので、己はなんだか物に魅せられたやうな心持がした。黒ん坊は※[#「糸へん+求」、第4水準2−84−28、91−下−7]《ちゞ》れた毛の上に黄絹《きぎぬ》の帽を被《かぶ》つてゐる。帽の上には鷺
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