つた蝋燭の一本を、トビアス爺いさんは取つて、風に吹き消されぬやうに、手の平で垣をして、戸をあけた。「こつちへ這入つて下さい。どうぞこちらへ。」
プツゼル婆あさんが梯を降りる。跡からは若い男が一人附いて来る。
爺いさんが声を掛けた。「あゝ。プツゼルさんですか。あなたが来て下すつて、リイケは大為合《おほじあは》せです。どうぞお這入下さい。や、御前さん御苦労だつたね。おや。ルカスぢやないか。」
「えゝ。トビアスをぢさん、今晩は。ドルフさんは途中で友達に留められなすつたので、わたしが代りにプツゼルをばさんを連れて来て上げました。」
「それは御苦労だつた。まあ這入つて一杯呑んでから、ドルフのゐる処へ帰りなさるが好い。」
ネルラ婆あさんが背後《うしろ》から出て来た。「プツゼルをばさん、今晩は。お変りはありませんか。さあ、こゝに椅子があります。どうぞお掛なすつて、火におあたり下さいまし。」
背の低い、太つたプツゼル婆あさんは云つた。「皆さん、今晩は。ではもうぢきにグルデンフイツシユで洗礼の御馳走がありますのですね。ねえ、リイケさん、これがはじめてのですね。ネルラさんはコオフイイを一杯煮てさへ
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