駆落
ライネル・マリア・リルケ(Rainer Maria Rilke)
森林太郎訳

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)贄卓《にへづくゑ》

|:ルビの付いていない漢字とルビの付く漢字の境の記号
(例)今|転《ころ》ばうとした梯子段を

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、底本のページと行数)
(例)黒い※[#「※」は「木へんに解」、278−上−13]《かし》の木

/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)時計がこち/\と鳴つてゐる
−−

 寺院は全く空虚である。
 贄卓《にへづくゑ》の上の色硝子《いろガラス》の窓から差し入る夕日が、昔の画家が童貞女の御告《おつげ》の画にかくやうに、幅広く素直に中堂に落ちて、階段に敷いてある、色の褪めた絨緞を彩つてゐる。それからバロツク式の木の柱の立つてゐる、レクトリウムを通つて、その奥の方に行くと、段々暗くなつて、そこには煤《すゝ》けた聖者の像の前に点《とも》してある、小さい常燈明が、さも意味ありげに瞬《またゝき》をしてゐる。それから一番奥の粗末な石の柱の
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