で燕尾服《えんびふく》にも及ばないといって来た位です。姉さんは近頃どうしているのですか。みんな健康ですか。おっ母《か》さんは。
姉。(微笑む。)実はおっ母さんが様子を見て来いといったから来ましたよ。三日ばかりお前さんが顔を見せないもんだから、心配をなすってね。それにゆうべ夢に見たから、何事かありゃしないかというのですよ。年が寄って病気だもんだから、迷信家になってしまって困りますの。(間。)上元気のようね。
画家。そうですよ。慢性怠惰病という病気は別として。
姉。(微笑む。)まあ、その病気なら命に別条はないでしょう。
画家。(真面目に。)そうさ。しかしある意味においては人を死なすかも知れません。(間。)おっ母さんには、今からマルリンクの処へ呼ばれて行く処だったとそう言って下さい。マルリンクの処ではない。欧羅巴《ヨオロッパ》ホテルです。宴会はホテルであるのです。一体おっ母さんは何をしていますか。
姉。やっぱりいつもの通りですよ。ちょいと。マッシャさんが何か用があるのでしょう。(モデル娘の方《かた》を顔にて示す。娘は上着を着、帽を被《かむ》り、何か用あり気に戸の近くに立ち留りいる。)
モデル
前へ
次へ
全81ページ中15ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 林太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング