と銭とを巡礼に遣つた。それは巡礼の姿を見ると、如何《いか》にも立派な、品の好い人柄であつたので、初め思つた倍の物を遣りながら、それを息張《いば》つて遣るどころではなく、実際まだこれでは余り少ないと、恥かしく思つたのである。
セルギウスは三百ヱルストの道を乞食をして来た。痩せた体に襤褸《ぼろ》を纏つて埃だらけになつてゐる。髪は短く切つてある。足には百姓の靴を穿いて、頭には百姓の帽子を着てゐる。それが叮嚀に礼をした。それでも今まで国内の四方から幾人となく来た人を心服させただけの、威厳のある風采は依然としてゐるのである。
併しパシエンカは此巡礼が昔のステパンだと云ふことを認める事が出来なかつた。大分年を隔てゝゐるのだから無理はない。「若しお腹《なか》がすいてお出なさるなら、何か少し上げませうか。」
セルギウスは黙つてパンと銭とを受け取つて、パシエンカの詞には答へずにゐる。併しその儘立ち去らうとはしないで、パシエンカの顔をぢつと見てゐる。
パシエンカは不思議に思つた。
「パシエンカさん。わたしはあなたの所へ尋ねて来たのです。少しお願があつて。」セルギウスはかう云つた。美しい目の黒い瞳は
前へ
次へ
全114ページ中95ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
森 林太郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング