まつた。多少儀式を省略したが、とう/\終まで読んでしまつた。
勤行が済むと、セルギウスはそこにゐた人々に祝福を授けて、それから洞窟の外に出た。そして戸口に近い楡の木の下に据ゑてあるベンチに腰を掛けて、休息して、新しい空気を吸はうとした。さうしなくてはもう体が続かないと思つたのである。
併しセルギウスが戸口に出るや否や、人民は飛び付くやうに近寄つて来て祝福を求める。救を求める。種々の相談を持ち掛ける。その中には霊場から霊場へ、草庵から草庵へとさまよひ歩いて、どの霊場でも、どの山籠の僧の前でも、同じやうに身も解《と》けるばかり、感動する性《たち》の巡礼女が幾らもある。この世間に類の多い、甚だ非宗教的な、冷淡な、ありふれた巡礼者の型は、セルギウスも好く知つてゐる。それから又こんな巡礼者がある。それは軍役を免ぜられた兵卒の老人等である。酒が好で、真面目な世渡が出来なくなつてゐるので、僧院から僧院へと押し歩いて、命を繋いでゐるのである。又只の農家の男女もある。それは種々の身勝手な願をしに来たり、極くありふれた事柄を相談しに来る。例へば自分の娘を何の誰に嫁入させようとか、どこへ店を出さうとか、
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