した事がある。人には自分で着るのではなくて、自分を尋ねて来る貧乏人に遣るのだと云つた。さてその出来上つた品々をしまつて置いて考へた。あれを着て、長くなつた髪を切つて、立ち退けば好いのである。此土地を離れるには、まづ汽車に乗るとしよう。三百ヱルストばかりも遠ざかつたら好からう。それから汽車を降りて村落の間を歩かうと考へた。そこで或る時廃兵の乞食が来たのにいろ/\な事を問うた。村落を歩くにはどうして歩くか。どうして合力《がふりき》をして貰ふか。どうして宿を借るかと云ふのである。廃兵はどんな人が多分の合力をしてくれるものだとか、宿を借るにはどうして借るものだとか、話して聞かせた。セルギウスはそれを聞いて、自分もその通りにしようと思つた。或る夜とう/\例の衣服を出して身に着けて、これから出掛けようとまで思つた。併しその時になつて、去留《きよりう》いづれが好からうかと、今一応思案した。暫くの間はどちらにも極める事が出来なかつた。そのうち次第に意志が一方に傾いて来て、とう/\出掛けるのを廃《よ》して、悪魔のするが儘になつて留《と》まる事にした。只その時拵へた百姓の衣類が、こんな事を考へたり、感じた
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