れているのでありますが、面倒といった風に真中へ盛り上げて四方に広げるものですから、引いても引いても蕎麦が固まり続いて、顔を横にして食い切ったり箸ではさみ切ったりすることになります。これは蕎麦屋の職人が悪いからでありますが、これなども主人の心得一つであります。また素人で通ぶって「どうも蕎麦は箸ではさんで千切れるようなのはいけない、するするつながって来る方がよい」などという人があるのですから、段々蕎麦も悪くなり、また職人も不真面目になってごまかしものを作ったり支那蕎麦を拵えたり、時には蕎麦か饂飩の見分けのつかぬものを作るようになるのであります。
 蕎麦の食い方は、箸ではさんで尻の方を一寸三分ばかり汁へつけて、箸の方から口へ入れ、一度汁のつかないままで、口でしめしてから本当の蕎麦の味と香気を味わいて後、静かに汁のついている方を吸い込んで煮出汁の味が分るものであります。
 著者は、時々宅に取り寄せて食べることもありますが、これは第一まずい。蕎麦屋に行って食べるような味はしないので、食べ方研究のためなどと口実をもうけて出かけることも多いが、近来蕎麦屋へ行ってもまずいことが多い。第一椅子に腰をかけ
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