ろそろとわしの心の臓を荒しはじめたわ、退《すさ》り居ろう。
何の□□[#「□□」に「(二字分空白)」の注記]わしは賢明なのじゃからの。紙に書いつけた文字は見た所だけは美くしいものじゃ。
又見とうなくば破く事も焼きすてる事も出来るものじゃ。
人間の怒った顔と申すものは世の中の一番文字の下手がかいたものより尚見にくうて、
そうたやすくは、やきすてる事も出来んものでの。
いっち人こまらせものじゃ。
法 鏡のござらなんだのがまだしもの事でのう。
王 いかにもじゃよ。
わしはもう美くしい丁寧な言葉で話し居るのはいやになって参った。
もう明らさまに正直に申すのじゃ。
法 そして早うきりをつけたがよいのでの。
王 もうとうにきりがついて居るのじゃ、わしの方はの――
僧官の任命権を得ようとお事の致いて居るのはお事が人間である限り必ずそうも有ろう事じゃ。
又わしが御事にそれを許すまいと致いて居るのもわしが人間である限り必ずそうあるべきはずの事なのでの。
人間と申すものは高い低いにかかわらいで己の権内に歩みこまるるのをこのまぬものじゃ。
法 じゃが僧官の任命権等と申すものはも
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