入口の左右の二本柱に王家の紋章が彫られて居る。
しおれかかった赤い花が一っかたまりその下に植えられて居る。
家の壁と石造の四角な煙突に這いかかったつたが赤く光って日光からそむいた側の屋根は極く暗くてそうでない方は気持の悪い様な変な色に輝いて居る。
木の彫刻の沢山ある小窓は開いたのと閉されたのと半々位で一つのまどには小鳥の籠が吊してある。広場をよぎって左右に道がついて居る。
一体に秋の中頃の黄色っぽい日差しで四方には何の声もしない。
幕が上ると中央から少し下手によった所に置いてある腰掛にたった一人第一の女が何をするともなしにつたの赤く光るのを見て居る。
かなり富んだらしい顔つきをして大変に目の大きい女。
深紅の着物のあさい襞を正しくつけたのをきて、白い頭巾をぴったりとつけて指にすっかり指環をはめて居る。
なかにも右の手の中指のはことに目立つ位まっさおでうす気味悪いほど大きい玉をつけた指環。
すぐ下手から第二第三の女と非番の老近侍が出て来る。
女達二人は極く注意した歩き振りでどんな時でも少し体をうかす様につまさきで歩く。
老近侍は大股にしかし気取った物ごし。
第二の女は深緑の着物と同じ形(
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