方がいい。
法王(老僧の背後から声をかけて云う)これ婆さん。
わしはよろこんで会うからここへお呼び。
老爺 お勿体もない御方様へ申します。
何にもその様に、今日に限ったことはござりませぬ。
三日も立ちましたならおつむりも軽くなる事でござりましょうから、その時にせいと申します。
それがよい。のう婆。
老婆 そうの事、そうの事。
それがいっちよい。
都にござらしてお歴々のお方の前へ度重ねてまかったものとはずんと違うて、お勿体もない、かたじけない、と思うと涙をらちもなく霑《こぼ》すのと、他愛もなく笑いこける事より存じませぬ者ばかりでござりますもの。
法王 わしはそれがうれしいのじゃ。
早く呼んでお出。
老爺 ほんに有難いと申しても足りぬほどじゃわい。先祖さえよう持たぬ老ぼれ爺《じい》が、法王様からお言葉なんかいただくちゅーは。
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大きな手で信心深さに流れ出した涙をふきながら、
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老爺 そんなら、そう致しますだ。
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二人は戸口から去る。間もなく静かに沢山の足音がして日曜に着る着物を着た男女が多勢出て来る。
人々は戸口に恐れた様にひざまずいて仕舞うのを法王は泣く様な無理な笑顔をして居る。
老爺が群の一人に何か話すわきからせかせかしながら、
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老婆 ほんのこったぞ。
これ皆の衆。
御勿体ない、法王様は御病気でござらしゃるだに皆を祝福してやるとこらえてああやってござらしゃる。常ならば、はるばる参らねばお衣のはじさえようおがめぬに斯うやって――
ああ、ああ、ほんにほんに――
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第二の若僧に手を引かれて一番先に居た老人が法王の前にひざまずく。
細かく体をふるわして居る。
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老人 はあ、恐れ多い事でござりまする。愚か者がしらぬ間に犯した罪はさぞ数多いことでござりましょう。
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法王はやせて骨の目立つ手を老人の毛のうすい頭にのせて黙祷する。
それから順々に二言三言感謝の言葉をのべるものや、中には狂的に法王の手を接吻したりさすったりして祈るものがあるかと思えば、身の浮くほど泣くの
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