自由に致す力を持って居るはずじゃ。
何せわしは御事が毎日毎日神をお説《と》きやってわしの息をひきとるまでお説やっても心はかわらぬのじゃ。
許すとは申さぬじゃ。
根くらべを致いて居るも、そうあきの来るほど長い事ではござらぬじゃ。
お互に千年とは生きられぬ事じゃほどにのう、土面の中で、うつろになった眼《まなこ》を見はって機嫌のよい娘の様に明けても暮れても歯をむき出いた口で云いあいながら根くらべを致す事はござらぬじゃろうからのう。
またたってお事が許いて欲しくば偉うお事をお守りなされる神に願うて不死の薬なりいただいてわしの十代あとの皇帝に許いておもらいなされ。
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王は静かに立ち上って音もなく供人にかこまれて中央の扉のかげに消える、舞台には法王の群一つになる。
間もなく下手の扉をあけて小姓が一人手に書きものを握って入って来る。
法王に渡すと一目見て口に氷の様な冷笑をうかべる。
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法 斯う御返事なされ、
有難う頂戴致す。
したがわしは幼いうちから礼儀をきつう育てられたのでの、これに御答え致すためには王に一言申したいのじゃが、口で申さぬかわり、相当な御返礼と思うてこれをさしあげるとな。
又御目にかかる日もそう大して遠くはあるまいと思って居る、
と足して申したとな、おつたえなされ。
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法王は落ついた手つきで外套の下から巻いたものを出して小姓にわたす。
小姓はそれをうけとると一足急にさがって、
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小姓 法王様!
これは破門の宣告状でございます、
陛下に――
お間違いだろうと存じます。
法王 盲にも、目くされにもなって居らんでの。
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小姓はすくんだ様に下を向いてそこに立つ。
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法 馬の用意をいたいて呉れ。
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法王の供人一人下手から去る。
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法 若い人何もその様におどろかぬとも良いのじゃ、王はわしに廃位の宣告状をお送りなされた御礼じゃもの。
ちとかるすぎるかも知れぬが、わしは貧しゅうてそれ丈の
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