た砂漠の砂は黄色い。鳥や獣の足跡も其上になく、地平線に、黒紫の孤立したテイブル・ランドの陰気な輪廓が見える。低い、影の蹲ったようないら草の彼方此方から、巨大な仙人掌《サボテン》がぬうっと物懶く突立っていた。
高さ十五|呎《フィート》もある其等の奇怪な植物は、広い砂漠の全面を被う墓標のように見えた。凝っと立ち、同化作用も営まない。――
そうかと思うと、彼等は俄に生きものらしい衝動的なざわめきを起し、日が沈んだばかりの、熱っぽい、藍と卵色の空に向って背延びをしようと動き焦るように思われる。
夜とともに、砂漠には、底に潜んだほとぼりと、当途ない漠然とした不安が漲った。
稲妻が、テイブル・ランドの頂で閃いた。月はない。半睡半醒の夜は過敏だ。
[#地から5字上げ]――アリゾナ――
青みどろの蔓《はびこ》った一つの沼。
四辺一面草の茂った沢地なので、何処からその沼が始っているか見当がつかない。
一隅に、四抱えもある大柳が重い葉をどんより沼の上に垂れていた。柳には、乾いた藻のような寄生木《やどりぎ》が、ぼさぼさ一杯ぶら下っている。沼気の籠った、むっとする暑苦しさ。日光まで、際限なく単
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