ったろう。祖父はお千賀、お前は親に似ない風流心のない女だな、とよく云っていたらしい。祖母の家は茶が家の芸だったのだそうだ。祖母が茶をたてるのは一遍もみたことがない。その代り浅草の鰻屋へはよくつれて行って貰った。趣味にしても人の好悪にしても祖母はどこまでも現世的であったと思う。
 後継ぎになる筈の一彰さんという人は、大兵な男であったが、十六のとき、脚気を患った後の養生に祖母はその息子を一人で熱海の湯治にやった。そこでお酌なんかにとりまかれて、それがその人の一生の踏み出しを取り誤らせることになり、廃嫡となった。大きい一彰という人が白縮緬の兵児帯に白羽二重の襟巻なんかして、母のところを訪ねて来たのを覚えている。この伯父は、母に向ってもやっと膝に手をおいたままうなずくだけであった。そのひとの子が家をつぐことになっていたのがやはりごたついて、流転生活の最後は哀れな死にようをした。そのひとは、母に向って、おばさん、僕は五つから質屋通いをやらされたんだよ、察しておくれ、といって泣いた。
 祖母は、その孫より先に八十九歳の生涯を終ったが、生きているうちから、私はお祖父様には面目なくてと云っていたが、遺
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