義者」が好んで口にする凡ての人々にとっての自由、権利は存在しない。ただ働く者の自由と権利が確保され搾取者が当然抑圧されているのだ。
我々はそれをソヴェトの憲法について見よう。
第一条、ロシアは労働者、兵士及び農民代表者より成る諸ソヴェトの共和国たることを宣言す。中央及び地方の全権力は皆ソヴェトに属す。
第六十四条、ソヴェトの選挙権及び被選挙権は宗教・民族・住所上の要件等の如何に拘らず、ロシア社会主義連邦ソヴェト共和国の左記男女公民にして、選挙当日満十八歳に達するもの之を享有す。
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(イ) 社会に有用なる生産的労働によって生計の資を得る者並びに是等の者を労働に従事せしめるために家内労働に従事するもの、即ち工業・商業・農業その他に従事するあらゆる種類及び性質の労働者及び使用人並びに私的利益のために他人を雇傭せざる農民及びコサック。
(ロ) ソヴェト共和国陸・海軍兵卒。
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このソヴェト陸・海赤軍の兵卒が選挙権をもっていることをも、我々は特別注意しなければならぬ。ソヴェト同盟ではプロレタリアート・農民の武装せる前衛として、赤色陸・海軍兵は、少なからぬ特権を与えられている。ソヴェト役人に選挙された場合、普通の市民は、例えば教育委員一役に任じられるだけであるが、赤色陸、海兵は更にもう一つの委員会に委員として兼任する権利をもっている。ブルジョア地主的天皇制[#「天皇制」に×傍点]の日本に於いて、兵士は極端な抑圧の下に置かれる。彼等は選挙権、被選挙権を剥奪され、日給十五銭、読書の自由、集会の自由までを奪われている。
ソヴェト同盟において選挙権、被選挙権を与えられぬものは左のような人々である。
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(イ) 利潤を収得する目的をもって他人を雇傭する者。
(ロ) 資本の利子、企業又は土地の所有等によって生ずる収入の如く、自己の労働によらざる収入によって生活する者。
(ハ) 個人商人・商業仲介人・仲買人。
(ニ) すべての宗派の僧侶及び説教師。
(ホ) 旧警察の官吏及び使用人・憲兵・密偵並に旧ロシア王朝の一族。
(ヘ) 法律上精神に異状ありと認められたる者、発狂者並びに後見に付せられたる者。
(ト) 破廉恥罪又は金銭上の犯罪のために法律又は裁判所の宣告により一定の期間ソヴェト選挙・被選挙権を剥奪せられし者。
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我々は、ある英人ソ同盟訪問記に書かれた、ソヴェトの工場における選挙の模様を次に引用することで、ソヴェトの国家体制についての理解を一層具体的にすることが出来ると考える。
「私がそこを訪問した時、それは事実上の選挙の何日か前であったが、工場の壁には、モスクワ市ソヴェトと、それよりも重要性の少い区《ライオン》ソヴェトへの、選出を求める候補者たちの、二つの人名表が掲げられてあった。そこには又、選出せられたメンバーが、死亡又は他の任務のために、長期に亙って欠席する際に、その代りとなるべき『代理人』の名をつらねたもっと短い人名表もあった。工場は、その労働者六百名毎に、一人の代表委員を選出する権利をもっていた。この工場の割当は、実際には十四名であった。ところがこの表は、それに十五名の名が列記されているという点で、特に目立った。その先頭に、レーニンの名が出ているのだ。レーニンは在世当時、そのメンバーであったから、彼らは尚、彼の記憶に対し、この感動的な敬意を払っているのであった。」「レーニンの名前の次は、彼の後を継いで、全連邦人民委員会議の議長となっているルイコフの名前があった。この工場は、革命闘争の際の先駆者であった、従って、それはその代表委員として、ソヴェト統治の、事実上の首領を選出する名誉を得るだけの権利があるのだ。残りの名前は、何れも元この工場で働いていた、労働者出身の人々の名前であった。十四名の内七名は、その表が示しているように、共産党員であった、一人は共産青年同盟員であり、他は皆『非党員』であった。十四名の中、三名は婦人であった。
[#図「ソヴェト選挙系統」入る、P516]
ここには又、その承認を得るために、選挙人に示されている、公認共産党員の、単に過半数だけを挙げた公の表があった。それに対立するような表は、何もなかった。どんな方法で、その表が作られたのか。第一の段階として、再び立とうと思う前年度のソヴェトの委員(選挙は毎年行われる)は、彼若くは彼女の活動に関する報告をする。次に工場委員会と、各種の範疇の労働者の小グループを代表する三百名の代表者との間で、一つの集会をもつ。この集会で、候補者の名前が提出せられるのであるが、それで屡々《しばしば》、各候補者の活動記録及び批評について、徹底的な討論が行われる。普
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