勤労大衆を抑圧し、半封建的、半殖民地的搾取をつづけつつある一握りの少数者によって「搾取のためにつくられた強制のための特別の機構」こそ、絶対主義的、軍事的、警察的天皇制[#「天皇制」に×傍点]の帝国主義日本国家である。かくの如き日本ブルジョア国家が憲法を持ち、議会を持つというのも結果においては、勤労大衆に向っての卑劣な欺瞞として役立つに過ぎない。それは、天皇制[#「天皇制」に×傍点]支配が日本[#「日本」に×傍点]の資本家、地主独裁の野蛮な形態であるという現実を覆い、伝統的な神秘化によって、さも天皇[#「天皇」に×傍点]は本来、一種不可侵の道徳的優越性、絶対的尊厳を賦与されて綿々とつづくところの「神人」による支配であるかの如き迷信を、被搾取大衆に与える。憲法の保証する「集会の自由、言論の自由」「結社の自由」「出版の自由」がどんなものであるかということは、勤労大衆の眼を持ったすべての人は知っている筈である。集会で一言、半句も云わさない解散、検束、拘留は常例だ。家族的な集会にすら、警察の犬は襲撃している。
 このような天皇制[#「天皇制」に×傍点]支配の本質の胡麻化しによって、支配階級の絶対主義的支配は円滑にされるばかりである。プロレタリアート・農民を搾取のもとに繋ぎとめようとして、支配階級の行う絶対主義強化の努力は、小学校の国語読本、歴史教科書類から、在郷軍人団、青年団、女子青年団等の反動組織をまで網羅している。忠君愛国主義が教化政策の根底におかれている。
 同じくブルジョア・地主的天皇制[#「天皇制」に×傍点]の糊塗のために行われるものに普通選挙がある。然し、一度でもその資格調査をうけたプロレタリアート・農民は、それが決して大衆の声を反映させるために行われる普通選挙でないことを自覚するであろう。選挙権は満二十五歳以上、一ヵ年以上同一の場所に居住した男子(女子は全然除外)に限られている。実に複雑な制限が労農大衆の革命的代表を阻止する目的でつくられてある。(我々は兵役の義務は十七歳以上から課せられていることを忘れてはならぬ)被選挙権の制限は一層広汎で男子、満三十歳以上、而も立候補のために二千円の保証金を供托しなければならず、得票がその選挙区定員数を以て有効投票数を割った数の十分の一に足りない時は、二千円をそのまま没収するという規則がある。しかも、共産党の被告、共産党支持者
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