は全く思いがけず、裏の叢の上に蓼の花の咲き出したのを見つけた。
蓼の花は高く咲いている。
秋が更けて空が澄んだら蓼の花は美しさを増すであろう。
心にある除熙の絵が働いて、私は朝靄の裡に開いたばかりの一輪の白蓮の花を思い浮べた。そこは鎌倉、建長寺の裏道だ。午前五時、私共は徹夜をした暁の散策の道すがら、草にかこまれた池に、白蓮を見た。靄は霽《は》れきれぬ。花は濡れている。すがすがしさ面を打つばかりであった。
模糊とした私の蓮花図のむこうに、雨戸は今日も白々としまった一つの家がある。
[#地付き]〔一九二七年九月〕
底本:「宮本百合子全集 第十七巻」新日本出版社
1981(昭和56)年3月20日初版発行
1986(昭和61)年3月20日第4刷発行
底本の親本:「宮本百合子全集 第十五巻」河出書房
1953(昭和28)年1月発行
初出:「アサヒグラフ」
1927(昭和2)年9月7日号
入力:柴田卓治
校正:磐余彦
2003年9月15日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.j
前へ
次へ
全7ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング