寝るときまで列で暮す兵隊は、一つの目的のために統合された人間の典型であるし、そこでは市民生活としてはふだんのものでないものがふだんの姿となっているということが、全く特質となっている。
もとから市の無料宿泊所や本願寺のお粥の接待に列の出来ていたことは周知の事実でもある。砂糖が切符になる前に砂糖やの前に出来ていた列、この頃は食事時間に丸の内辺の食堂のぐるりにも出来る列。列は整頓の形でありながら、常にその奥に何か足りないもののあることを語っているのはまことに意味ふかいことではないだろうか。だから、いろんなもののための列が国民生活の日常に多くなって来ることはそれにつれて、それぞれの国の歴史の緊張の度合いが知られるということにもなる。
今までもよく外国がえりの人たちが、あっちでは市民の訓練がよくゆき渡っていて、何かあると誰云うとなく皆整然と列をつくって事を運ぶ、と褒めた。しかし市民が自分たちですぐ列をつくってゆく心理や習慣を持っているということは彼等にとって決してなま容易《やさし》い生活経験から身につけられたものではないにちがいない。第一次の大戦というものは、彼等に深刻な社会的な逼迫から人間
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