列のこころ
宮本百合子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)更科《さらしな》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)蕎麦のたれ[#「たれ」に傍点]の匂いの漂った
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 このごろはどこへ行っても列がある。列に立ってバスにのって用達しに出かけて昼ごろになり、日比谷の公会堂のよこの更科《さらしな》を通りかかったら、青々と蔦をからめた目かくしをあふれてどっさり順番を待っている人々の列があった。この小さい蕎麦店の入口はバスの入口のようにたった一つではなくていかにも公園のなかの店らしくからりと三方あいているし、テーブルはいくつもあるから、列も単純な一列ではなく、うち見たところテーブルに向って今や盛に蕎麦を箸にすくい上げてはチューチューと喉へすべり込ましている人々の背中へつめかけて、ぎっしりと犇《ひし》めきよせて順を待っている。一人が椅子から腰を浮かすや否や、背後に待機していた人が極めて敏捷に、そのあとへ坐る。立った人の脚の片方がまだ椅子のところからどききらないうち、もう新手のひとの片脚はその片脚のわきに来ている。その位のすばしこさである。大抵
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