離反、相剋を見出している。作品のテーマをなす知識人の人間苦として、深刻な凝視でこの一点をさまざまな局面の組合せの変化において描いているのである。
女の卑俗な意味での打算、散文性、日常主義の姿を、いきいきと描いた人には紅葉もある。荷風も描く。だがこれらの人々は浮世風俗の一つとして傍観的に描くのであるが、漱石の世界にあっては、女、とくに結婚している女のこういう性格が、良人である男を、死の際へまで追いやる精神的苦悩の原因として出て来ているのである。
荷風は、女を、くじかれたものとして眺め下す好みにいる。その好みの通る世界にとじこもっている。漱石は女を恐るべき生きもの、男を少くとも精神的に殺す力をもつものとして描いているのである。女の心を捕えようと欲する男の心持、その人間的な欲求が、女の敏感さの欠乏、精神的無反応、日常事の中での恐るべく根づよい居坐りかたなどによって、手も足も出ないような工合になる。その焦慮の苦悩は「行人」の「兄」が妻直子に対して「女のスピリットをつかまなければ満足できない」心持に執拗に描かれているのである。
最後の「明暗」に到って、女の俗的才覚、葛藤は複雑な女同士の心理
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