葉の少女の像には当時の日本の知識階級人の一般の趣向を遙にぬいた御両親の和洋趣味の優雅な花が咲いていたのだと思われる。
森さんの旧邸は今元の裏が表口になっていて、古めかしい四角なランプを入れた時代のように四角い門燈が立っている竹垣の中にアトリエが見えて、竹垣の外には団子坂を登って一息入れる人夫のために公共水飲場がある。傍にバスの停留場がある。ある日、私がその赤い円い標識のところにぼんやりたたずんでいたら、森さんの門があいて、一人の若い女のひとが出て来た。そして小走りに往来をつっきってはす向いの炭屋へゆき、用事がすんだと見えてすぐまた往来を森さんの門に戻って来て戸がしめられた。それは昔の写真の少女の面影をもっていた。美しい人で同時に寂しそうであった。それからまた別の日に、私は団子坂のところで流しの円タクをひろった。ドアをしめて、腰をおろし、車が動き出したと思ったら、左手の窓のすぐ横のところには一人の若い女のひとの顔が見えた。かすかな笑いの影が眼のなかにあって、静かにこっちを見ている。再び私はその顔を、ああと写真の少女の面影に重ねて思い、そちこちに向って流れる感情を覚えた。だがそれなりに走
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