、文学と歴史とのことが今日において一般の関心をひきながらも、続々傑出した歴史文学を生み出して行き得ないでいる社会と文学の生理そのものが、後代に向って一つの歴史的事実を訴えるものであるということにもなると思う。
歴史と文学とのかかわりあいの多面さの実際としてみれば、現代文学における作家横光利一の発生、評論家小林秀雄の誕生そのものに今日につづく多くの歴史的要因がこめられていたのであるし、更に日本浪曼派の評論家保田与重郎の文学的出生には前の二人の人たちを送り出した歴史の性格の数歩前進した或る契機が語られているのである。
現在、甚しい困難とたたかいながら文学の勉強をしつづけている若い世代の人たちは、多面な歴史と文学との交渉のどんな面の選手として自身を培って行こうとしているのだろうか。これは一語に尽せない明日の文学上の問題であろうと思う。
文学そのものが本来の性質として、運命に対する人間精神の積極な働きかけに立つものであるから、かりにも文学に従う上はあらゆる作家の芸術的モティーヴが歴史の消耗力に向って、消耗され尽さざらんと欲する心情に根ざしているのは自然の理法と云わなければなるまい。その芸
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