めなさいね、
叱られるわ。
A 私何だか気味が悪いわそんな事、
何にも出なくって。
若し出たらどうなさるの、お母様はいらっしゃらないし。
C 立派な手足があるわねえ、おじさん。
旅 そうそう、私はこれから段々みがきのかかった手足でまだどの位の日数を歩いたら行きつくか分らない、行かなければならないところへまで毎日毎日歩かなければならないんですよ。
今日までのうちに私はどっさりいろいろのものを見ました。
森の木の枝に自慢の角を引っかけて玉にうたれた鹿だの、孔雀の羽根で恥をかいた可哀そうな鳥だの、片目をたのみすぎた罪のない驢馬だのねえ。
B まあそんなに?
私にはそんな事考えられないわ。
A そんな旅はいつまで続《つづ》くの。
来年まで?
さ来年まで?
旅 神様が御召しになる日までつづくんですよ。
もう少したつと貴方方も旅に御出かけにならなけりゃあならないんです。
野宿もしなければならず、川も渡らなければならない事をいつまでも覚えていらっしゃいね。
さあ、大変長いお話をしてしまった。
御覧なさい、
あんなに向うが暗くなって来ましたよ。
さあ、帰りましょう。
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Cはじいっと何か考えて居る様に口を利かずに遠くを見て居る。
[#ここで字下げ終わり]
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A あら、Cちゃん、どうしたの。もう行くのよ、お話がすんだのよ。
C ええ、知って居るのよ。
何だか大変、私には重いお話の様に思えるわ。
行きましょう。
B ほんとに面白かった。行きましょう、さ。
A 有難うおじさん。
私きっと美味しいパンとチイズをあげるわ。
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旅人を中にはさんで三人の子供は歩き出す。
そして順番にやわらかく、民謡の様な左の文句を口ずさむ。
[#ここで字下げ終わり]
雪の降る日に小兎は、
あかい木の実のたべたさに
親の寝た間に山を出で
城の門まで来は来たが(ここまでA)
赤い木の実は見えもせず
路は分らず日は暮れる
長い廊下のまどの下
何やら赤いものがある、(Bここまで)
そっとしのむで来て見れば
こは姫君のかんざしか
珊瑚の玉か恥かしや
たべてよいやら悪いやら
兎は悲しくなりました。(Cここまで)
底本:「宮本百合子全集 第二十九巻」新日本出版社
1981(昭和56)年12月25
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