しがって顔を赤らめる。
いかにも厳ながらやさしい尊い立派な様子だ。
限りない思想の大なるものとさぐりの届かない神秘さがひそんで居る。
山とぶなの木々が笑み合うと自《おのず》と私の心も軽く笑う。
銀と黄金が考え深い様にまたたくと私の霊は戦く様に共にまたたき無声の声にほぎ歌を誦せばその余韻をうけて私も心の奥深くへと歌の譜を織り込んだ。
銀と黄金と私の心と――
一つの大きなかたまりとなって偉大な宙に最善の舞を舞う。
稲の刈りあとと桑の枯木
田の稲の刈り取られたままひからびた様子は淋しい気持がするものだと先からの人達は云って居る。けれ共二十本ほどずつ一っかたまりになってゴチゴチになって行列を作ってチョキンとなって居るのは淋しい中にも何とはなしおどけた茶化した気持がある。
あぶ蜂とんぼにした子供の顔や半はげの頭を思い出したりする。
けれ共桑の枯木が繩で結わかれて風に吹かれ吹かれして立って居る様子の方がよっぽど淋しいやるせない気持がする。
いかにもわびしそうに体の細いためにもその気持が深くなるのかもしれない。
世の中の暗い裏面を思わされる。
野飼いの駒
那須野が原のほおけた雑木林の中をしずしずと歩む野飼の駒を見た。
黒い毛並みをしとしと小雨がうるおして背は冷たく輝いて大きな眼には力強さと自由が満ちて居る。いかにものんきらしい若やいだ様子だ。
枯草の上を一足一足ときっぱり歩く足はスッキリとしまって育ったひづめの音がおだやかに響く。
小鳥さえも居ない木から木へと見すかしては友達をさがす様な様子をして、甘ったれる様に鼻をならしたり小雨のしずくをはらう様に身ぶるいをしたりする。
楽しそうで又悲しそうに初めて野放しの馬を見た私の心は思う。
まるで百年の昔にもどった様に平和な原始的な気分がみなぎって居る。
これからは青草も多く心のままに得られるだろうけれ共雪ばかり明け暮れ降りしきる北の国に定められた臥床もなくて居る時はさぞわびしいだろう。
あんまり自由すぎて育てられた子供の様な気で居るに違いない。
私はこんな事も思った。
そうっとくびを撫でてやりたい様な気持を起させるほどすなおらしい人なつっこい目をして居る。
軽い淋しさがわけもなく私の心の底に生れた。
ペンペン草
私は到る所に白いなよなよとした花をもっ
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