何故か起さなかった。おそろしく――一緒に並んで歩くのが極りわるいほど盛装して妻三郎の活動を見に行く位のものであった。
 そういうのこそヒステリーらしいヒステリーだ。縫子は決してそんな話の種を作るようなことはなかった。彼女はただどうかした拍子で時々云うに云われず一切合財生活の事々が詰らなあくなってくるだけであった。生きているのが厭というのでもない。何がどう詰らないというのでもない。ああその張合いないどうでもよさといったら……。縫子は眼を開けているのさえいやで面倒になるのであった。母親が師匠だけあって自然手に入った裁縫でさえ、そのような時縫子の気つけ薬には役立たなかった。ましてあたり前な水仕事や洗濯など。――彼女は床にもぐったきりになった。そこから黙って出て来て御飯を食べて、再び布団をかぶりに戻る。
 家は下が二間しかなかった。箪笥や長火鉢の置いてある四畳半に縫子が寝ていると、お針子が手水に行くにどうしてもそこを通らなければならない。母親や妹の登美とともにお針子達も、縫子の病気は理解していると見え、誰一人真面目に心配はしなかった。平常親しい米やてふも、いたって軽く、
「縫子さんいかが」

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